今昔物語　道永真由己　VOL.4

　アメリカの大学の授業では、よくディスカッションの時間があったのですが、最初の頃はとても苦痛な時間でした。

　英語が分からない、話せない、自分の意見がない、あっても英語で表現できない。
日本のことを何も知らない。だから、質問されても分からない。
まさに、ないないづくし。
同じグループになった人からも、無視をされたり、ため息をつかれたり、陰口を言われたりということも。

　宗教・哲学のクラスでは、私が信仰を持たないことで、「Go to hell!(地獄に堕ちろ)」と言われたこともありました。
その当時、根強い人種差別、偏見が強く残っていたせいか、差別用語を言われたこともありました。
その頃は、そういったストレスから、諦めて日本に帰国したい病が何度となく訪れました。

　当時は、SNSも普及していなかったので、連絡手段は電話のみ。
私は覚えていないのですが、当時母親に「この空は日本と繋がってるんだよね。」って呟いたことがあったみたいで、数年前に母親から、「あの頃あんなことを言ってたけど、本当は辛かったんでしょ」と聞かれて驚きました。
辛いとか、帰りたいという言葉は一言も口にしたことはなかったのですが、非言語で伝わっていたみたいですね。

　そんなアメリカ生活。辛いことだけでなく、楽しい事もたくさんありました。

　寮の地下や、音楽専攻の建物内でピアノを弾くことができるスペースがあり、その当時は、パッフェルベルの「カノン」をどうしても弾けるようになりたくて、勉強の合間によくピアノを弾いていました。
そういう時間を毎日続けていると、声をかけてくれたり、ピアノを聞きにきてくれたり、演奏を一緒にするようになったり、ギターや歌を歌う人がでてきたりと、仲良くなるきっかけを作ってくれたのは、音楽でした。
十数年習っていたピアノ。大嫌いだった頃もあったのですが、その大嫌いだったピアノに救われ、初めて音楽をやっていてよかったなと思えた瞬間でした。

　人間とは不思議と慣れてくる生き物で、徐々に英語を理解し、少しずつコミュニケーションがとれるようになっていきました。
休みの日には、ボーリング、映画、お買い物に行ったり、カジノに行ったり（もちろん合法です笑）。夏休み等の長期休みには、旅行にもいきました。
一番印象的だったのが、メキシコのマヤ遺跡でした。

　私、遊んでばかりではないですよ（笑）人生の中で一番勉強しました。
私は、特別頭がいいわけでもなく、要領が良いわけでもなかったので、英語で大量の教科書を読んだり、理解をするのに、ものすごく時間を要しました。
なので、授業が終わると、図書館に毎日通いました。
まさに、図書館がお友達。そういう生活を3年間続け、なんとか、テネシー州立大学を無事に卒業することができました。
卒業式は、映画のワンシーンにあるような、黒いガウンを着てひし形帽子を青空に投げましたよ。

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